【イベントレポート】 安楽死・尊厳死をどう伝えるか #1 宮下 洋一さん編

 今年7月、嘱託殺人の疑いで2人の医師が逮捕され注目を集めました。SNSで知り合った筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者から依頼を受け、胃ろうから薬剤を過量投与して死亡させたとされるこの事件をきっかけに、日本国内で「安楽死」や「尊厳死」について議論される機会や報道が増えました。

 そこで今回のイベントでは、この問題に長くかかわってきた各国のジャーナリストや研究者をお招きし、安楽死について今どう考えているのか、この事件をどう見るか、そして「伝える」際に何を注意すべきなのかについて議論しました。

 その内容の一部をレポートします。


下洋一さん

スペインとフランスを拠点に社会問題から医療まで世界各国で取材するジャーナリスト。著書に「 安楽死を遂げた日本人」「卵子探しています」「ルポ・ 外国人ぎらい」など。 

今回の事件が「安楽死」と呼べないワケ

 「日本ではそもそも認められていないし、安楽死は医師と患者と家族の了解があるものを指すので、今回の事件は安楽死とは呼べない」と話します。

 宮下氏が安楽死を扱う上で重視するのは、家族の了承が得られていること。「家族の反対がある限り、安楽死が達成されても、それは本人の願いが叶っただけ。残された人たちが抱いて生きていく思いも考慮することが、安楽死を扱う上でもっとも大事なことだ」といいます。

実際にスイスで安楽死前に揉めたり、事後に訴訟が起こったりするケースは、家族の了承が不十分である場合が多いとのこと。

 また、安楽死を望む人が、出会った医師の理念や信条に人生が左右される点も、安楽死の論点と言えそうです。癌を発症して安楽死を決意した米国オレゴン州の患者が、受診時に医師に自殺幇助を依頼したところ(米国オレゴン州では自殺幇助が認められている)、その医師が「早まらずに治療を受けてみてはどうか?」と提案。

 治療の結果、患者の癌は完治し、患者も安楽死の希望を取り消しました。元患者は後日、インタビューでこう語っています。「本当にこの先生に会えて良かった。自殺幇助を積極的に行う医師に出合っていたら、そこで人生が終わっていた」

日本では議論がまだ不十分。

難病患者への偏見や安易な肯定論の受けとめ方にも注意を。

 安楽死について、欧米では長い議論の歴史があり、例えばオランダでは安楽死事件や判決などを通して1970年代から議論を重ね、政治家が社会を変えるところまでできている国。宮下氏は、こうした社会的背景を抜きに、文化が異なる日本がオランダやスイスのように安楽死を取り入れても、うまくいかないと指摘。

「日本は集団で生きる心地よさや周囲からのサポートを感じる国。日本において安楽死で個人の死を叶えるということは、必ずしも必要ではないのでは」

 今回の事件に関する報道で危惧しているのは、難病患者への差別・偏見とも思える伝え方があったことでした。「難病患者への取材がたくさんあったように思うが、難を持つ人が全て同じ考え方をするわけではない。難病患者というくくりで比較すること自体が差別・偏見だ」と言い、死亡した女性が難病患者だったから今回の事件が起きたかのような報道を批判しました。

SNS上の安易な発言にも注意を

 また宮下氏は、SNS上にみられる安楽死肯定論についても指摘。「SNSでは緩和的鎮静、安楽死、尊厳死などいろんな概念の違いを理解せずに『どう死ぬかは個人の自由、安楽死を認めよ』と発信している人が多いように感じている。

 日本人は、特に安楽死と尊厳死を混同している人が多い。尊厳死は日本でも既に認められており、基本的には実行できる。それを知ると、『それなら安楽死までは必要ない』という意見に変わる人もいる。

 SNS上で安楽死肯定派が多いように見えても、発信者にも偏りがあるし、その意見がどれだけ見識を持って発出されたものなのかは分からない。ネットの声は、冷静に受け止めなければならない」と注意を促しました。

(増谷 彩)

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