【イベントレポート】 安楽死・尊厳死をどう伝えるか #3 市川亨さん編

 今年7月、嘱託殺人の疑いで2人の医師が逮捕され注目を集めました。SNSで知り合った筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者から依頼を受け、胃ろうから薬剤を過量投与して死亡させたとされるこの事件をきっかけに、日本国内で「安楽死」や「尊厳死」について議論される機会や報道が増えました。

 そこで今回のイベントでは、この問題に長くかかわってきた各国のジャーナリストや研究者をお招きし、安楽死について今どう考えているのか、この事件をどう見るか、そして「伝える」際に何を注意すべきなのかについて議論しました。

 その内容の一部をレポートします。


市川亨さん

共同通信社 大阪社会部デスク。1996年共同通信入社。前橋、千葉、高知支局などを経て厚生労働省キャップ、ロンドン特派員を務めた。共著に「ルポ 最期をどう迎えるか」(岩波書店)ほか。ダウン症のある子どもの親でもある。

安楽死を望む当事者の気持ちにも「ゆらぎ」がある

人生の最終段階のケアについて取材を続けてきた市川氏は、「日本のメディアでは『安楽死は認めるべきではない』という論調が強いが、多様な意見を伝えたいと思って取材をした」と経験を語ります。

中でも忘れられない出会いは、ロンドン、リオ五輪メダリストでもあるベルギーのパラアスリート、マリーケ・フェルフールト氏。

彼女は、「安楽死の許可証を得たことで、自分の最期は自分で決めることができると思えるようになり、心が平穏になった」「植物状態になって苦しみながら生き続けることは誰も望まないのではないか。安楽死は殺人ではなく、より長く生きるためのものだということを全ての国に伝えたい」と肯定した一方で、「『障害者はお金がかかる』とか、『家族の負担』といった理由で安楽死するように追い立てるのは完全に間違っている」と注意点も語ったそうです。

市川氏が対面したフェルフールト氏は、生きる希望とエネルギーに満ちあふれていたそう。後に彼女は、安楽死を遂げました。

 他にも、日本ALS協会前会長の岡部宏生氏は「患者は生きたい気持ちと死にたい気持ちを繰り返しながら日々過ごしている。自分を支えてくれる人たちがいれば、感謝し希望を感じられる」と、本人の気持ちも揺れ動くものであると話しました。

一方で、「障害者や難病患者、高齢者、社会の支援を必要とする人たちの死を認めるのは優生思想と結びついてしまう」という危機感も示しています。

また、医師で作家の久坂部羊氏は、事件後の報道で気になることとして「『生きる権利』を重視する論調が多いこと」を挙げ、「患者に『生きろ』と言うのが『死ね』と言うより残酷なこともある。

日本の現状は、救えない患者を無視していると思えてならない」、「命を奪うその重みに真正面から向き合った上で議論していくべき」と語りました。

事件はあくまできっかけ。

いずれ向き合う議論のためにも冷静な報道を。

 

こうした取材を続けてきた市川氏が、事件を通じて考えたことは、「今回の事件での行為は安楽死とは全くの別物だが、患者と長い付き合いがある医師が、丁寧な話し合いをし、家族とも話し合った結果、安楽死を実行した場合、我々はどう向き合うのか」ということでした。

市川氏は、「安楽死を求めるマグマが溜まってきていると感じている。今回はたまたまこういう形で吹き出しただけで、今後も考えなければならない局面が生まれるだろう」という考えを示し、
「優生思想的な同調圧力が強くなるのは危険だが、『同調圧力が強いから』ということを前提にしてしまうのも違和感がある。同調圧力が強いことが問題なのであれば、そちらを変えていくべきなのではないか」と指摘しました。

 最後に、今回の事件の扱い方について報道側が気をつけるべき点も挙げました。「公判が始まれば、逮捕医師らの考えに気分を害する人もいると思うが、そういう医師を生んでしまったことをよく考えなければならない。

ただし、逮捕医師らの主張を垂れ流すのも良くなくて、カウンター的意見をしっかりと出していくべきだと思う」と、議論を促す息の長い報道が必要だと主張しました。


先進国オランダでも、1970年代から永きにわたり数々の判例の積み重ねや社会的な議論を経てきた安楽死、尊厳死。

両者の定義の違いも曖昧な人が多いなかで、伝え手と受け手の理解度のばらつきや情報ギャップによってコミュニケーションがうまくいかないことは充分に考えられます。知識がある側が、前提を持って話したときに、全く違う理解をされることも。

これらのテーマを扱う上で発信者が気を付けるべきことは何でしょうか。

その後もメディア関係者や医療者からたくさんの質問が寄せられ、時間ギリギリまで白熱した議論が交わされました。

(増谷 彩)


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